相続時精算課税制度について【制度内容や活用方法を解説します】
相続時精算課税制度が知りたい人
「相続時精算課税制度で2,500万円までは贈与税がかからないと聞きました。本当にお得なのでしょうか。さらに活用方法があればついでに知りたい。あと注意することがあれば教えて下さい。」
こういった疑問にお答えします。
✓本記事の内容
- 相続時精算課税制度の制度内容と活用方法【私はおすすめしません】
- 相続時精算課税制度を利用する上で注意すべき3つのこと
この記事を書いている私は、不動産歴18年ほど。その中で相続歴は10年ほどの行政書士です。
よくある質問で「相続時精算課税制度がいまいちわかりません」という疑問があります。その疑問を順番に解決していきましょう。
1.相続時精算課税制度の制度内容と活用方法【私はおすすめしません】
2003年1月1日以後の贈与から適用されている比較的新しい制度です。
- その①:相続時精算課税制度について(制度内容を知りましょう)
- その②:相続時精算課税制度の適用させる条件について(税務署に提出が必要です)
- その③:相続時精算課税制度の利用価値がある人(活用方法は限定されます)
上記のとおり
ここから詳しく解説していきます。
その①:相続時精算課税制度について(制度内容を知りましょう)
「相続時精算課税制度」とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、子・孫(受贈者)の選択により利用できる制度です。
そして贈与者が亡くなった時に、その贈与財産の贈与時の価額と相続時の相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算し、まとめて相続税として納税します。
2,500万円の特別控除があり、同一の父母または祖父母からの贈与において限度額に達するまで何回でも控除することができ、2,500万円までの贈与には贈与税がかかりません。
なお、2,500万円を超えた分の贈与には、贈与時に20%の贈与税がかかりますが、相続発生後での相続税を計算する際に相続税が発生したとしてもすでに支払った贈与税相当額から控除されます。
このように、贈与税を相続税のいわば前払い的なものとして、相続税の課税時にその精算を行う方式をとるところから、「相続時精算課税制度」と呼ばれます。
ただし一度選択したら取り消すことはできませんし、従来の贈与(年間110万円の贈与税の非課税枠となる「暦年贈与」)の利用もできません。
具体例で説明します。
例えば、父親から1,000万円を贈与されたとします。相続時精算課税制度を利用すれば、この時点では贈与税は発生しません。
数年後、父親が他界し、相続された資産が4,000万円だとすれば、先に同制度を使って贈与された1,000万円を加算し、計5,000万円に対して相続税が計算されるということになります。
また、贈与者ごとに利用できるため、例えば両親からそれぞれ贈与を受ければ、最大5,000万円まで贈与税が発生しないことになります。
相続時精算課税制度は、選択制ですから、例えば父からの贈与については選択するが、母からの贈与には選択しない(従来の贈与を適用する)ことができます。ただし、一度選択したら取り消すことはできませんし、従来贈与(年間110万円の贈与税の非課税枠となる「暦年贈与」)の利用もできません。
その②:相続時精算課税制度の適用させる条件について(税務署に提出が必要です)
相続時精算課税を選択しようとする受贈者は、贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までの贈与税の申告期間内に、贈与税の申告と一緒に「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の納税地を所管する税務署に提出する必要があります。
その③:相続時精算課税制度の利用価値がある人(活用方法は限定されます)
相続時精算課税制度は、生前贈与を受けた財産額がすべて相続財産に加算されて相続税が計算されるため、基本的には相続税の節税には利用できません。
しかしこの制度を利用する価値があるものとして、次の3つのケースが考えられます。
1.多額の贈与をしなければならない場合
一時的にまとまった額の財産を贈与しなければならない場合やしたい場合には年間110万円の贈与税の非課税枠となる「暦年贈与」よりも、相続時精算課税を選択して2,500万円の特別控除を利用したほうが利用する価値があると考えられます。
例えば、父親が認知症になりそうなので介護費用などの多額のお金が必要であるときに後見制度を利用したくない場合などがあります。
2.所有している財産の評価額が将来確実に上昇すると見込まれる場合
相続時精算課税を適用した贈与財産は、相続開始のときには、贈与時の評価額で相続時の相続財産の価額と合計されて相続発生後の相続税の課税対象になります。
しかし、その財産を相続時まで被相続人が所有していて、もしも時価が上昇していた場合、その上昇した評価額で相続税の課税価格に含められるため、相続税の負担が増加することになります。
よって、確実に価値の上昇が見込まれる財産があれば、相続時精算課税を選択して、生前贈与を行うことが相続税対策になると考えられます。
ただし、未来のことなので将来確実なものは本当にあるのかは疑問です。
3.相続時での遺産総額(課税対象額)が基礎控除額以下と予想される場合
相続時精算課税を適用して贈与された財産を遺産総額(課税対象額)に加算しても、その合計額が基礎控除額以下であるなら相続税は課税されません。
遺産総額(課税対象額)が相続時においても基礎控除額を超えないと予想される場合には、その一部を生前に贈与して相続時精算課税を選択することも、次世代への財産の早期移転を図る方法として利用価値があります。
2.相続時精算課税制度を利用する上で注意すべき3つのこと
ここで注意すべき3つのことをお伝えします。
- その①:一度この制度を選択すると暦年課税(従来の贈与)に戻すことができません
- その②:贈与された財産の時価が低下した場合、余分な税金を払うことになります
- その③:小規模宅地等の特例が利用できません
その①:一度この制度を選択すると暦年課税(従来の贈与)に戻すことができません
「相続時精算課税選択届出書」を一度提出すると、撤回できません。
同じ贈与者からの贈与について、年間110万円の贈与税の非課税枠となる「暦年贈与」との併用が不可となっています。
もちろん特別控除額の2,500万円を超えた後では、その贈与者からの贈与については、贈与財産の額が年間110万円以下であっても贈与税がかかります。
この制度を選択した時点で、それ以降、暦年課税(従来の贈与)に戻すことができなくなりますので暦年贈与も利用できないこととなります
その②:贈与された財産の時価が低下した場合、余分な税金を払うことになります
この制度を適用して贈与を受けた財産の額は、相続開始時には相続財産の額に加算されて相続税の計算に含められますが、その加算される額は、贈与時における評価額によることとされています。
したがって、相続開始時にその財産の価値が贈与時よりも低下している場合でも、贈与時の高い評価額で相続財産の額に加算されるため、相続税が発生した場合には、この制度を適用しない場合よりも相続税額が多くなります。
相続時精算課税を利用して贈与を行う際に、価値の低下が予想されるものがあれば注意しましょう。
その③:小規模宅地等の特例が利用できません
「小規模宅地等の特例」とは、被相続人が住んでいた土地、事業をしていた土地、貸していた土地について、一定の要件を満たす人が相続したときに最大80%控除できる特例であり大きな節税効果が期待できます。
しかし相続時精算課税を適用して贈与を受けた財産は、この特例の適用対象にすることができませんので、この特例を適用したい土地は、相続時精算課税による贈与財産からは除くようにしてください。
まとめ:相続時精算課税制度の利用価値がある人は少ないです
ポイントをまとめます。
- 相続時精算課税制度の制度内容をチェック
- 相続時精算課税制度の適用させる条件をチェック
- 相続時精算課税制度の利用価値がある人
- 相続時精算課税制度を利用したほうがよいのか考えましょう
相続時精算課税は、2,500万円までの贈与には贈与税がかからない制度です。
しかし生前贈与を受けた財産額がすべて相続財産に加算されて相続税が計算されるため、基本的には相続税の節税には利用できません。
相続時精算課税制度は利用価値がある人にとっては税負担を大幅に減らすことのできる方法ですが利用価値がある人は少ないと思われます。
また、一度選択すると撤回ができないために利用に際しては慎重な判断が必要になります。
この制度を活用して次の世代に早期に財産を移転したい場合には、是非参考にしてください。
ということで今回は以上です。
相続時精算課税制度は、とても高度なので利用した方がよいのか迷っている方は相続に詳しい専門家に相談することをおすすめします。