家族信託が知りたい②【メリットとデメリットを解説します】

家族信託が知りたい人
「家族信託を利用するのにメリットやデメリットがあるのか分からないので教えて下さい。」

こういった疑問にお答えします。

本記事の内容

家族信託のメリットやデメリットが分かります【整理しながら検討しましょう】

この記事を書いている私は、不動産歴18年ほど。その中で相続歴は10年ほどの行政書士です。

よくある質問で「家族信託のメリットやデメリットが知りたい」という疑問があります。その疑問を順番に解決していきましょう。

家族信託は柔軟な財産管理ができます

家族信託を活用する前に知っておきたい5つのメリットと5つのデメリット【必須項目です】

【メリット】

① 任意後見制度に代わる柔軟な財産管理が可能になる

② 遺言書の代用として活用できる

③ 財産承継の順位が決められる

④ 倒産隔離機能がある

⑤ 不動産の共有問題・将来の共有相続への紛争予防に活用できる

【デメリット】

① 成年後見制度でないとできないこともある

② 受託者を誰にするかで揉めてしまう可能性がある

③ 節税効果は期待できない

④ 遺留分侵害額請求の対象となる可能性がある

⑤ 税務申告をする可能性がある

まずはメリットから解説します。

① 任意後見制度に代わる柔軟な財産管理が可能になる

判断能力の低下した場合の財産管理の手段として活用されるのが成年後見制度です。

成年後見制度では、後見人の負担と制約が多く、毎年家庭裁判所への報告義務があったり、資産(財産)の積極的な活用や生前贈与などの相続税対策ができません。

また後見契約(任意)を結んだ後見人(予定)は、本人の判断能力が衰えるまでは資産(財産)の管理はできません。

しかし、家族信託にはそういった制限はありません。

判断能力があるうちから本人の希望する人に財産管理を任せることができますし、認知症を発症した後でも資産(財産)運用や組替え(不動産の売却・買換)、建て替え(アパート建設等)が可能ですし、相続税対策として生前贈与をしていきたいという要望にも応えられます。

② 遺言書の代用として活用できる

家族信託には、遺言としての機能もあります。

遺言書を遺そうと思った場合には、民法で定める遺言書の方式・作成方法に従わなければならず、手続きは厳格です。

家族信託であれば、委託者と受託者(家族など)との契約で行うので、遺言書作成のような厳格な方式によらず、自分の死後に発生した相続について財産を承継する者を指定することができますし、本人が亡くなった後も信託を続け、残された家族のために財産管理をするということも可能です。

具体的な例ですと家族信託を契約した夫が認知症の妻を残して亡くなった場合などが考えられます。

通常の遺言書であれば、妻に〇〇円の預金を渡すとか、自宅を残すといった内容になります。

しかし、この場合の妻は認知症になっていますから、自分で自分の財産を管理することができません。

成年後見人をつけるなどして、対応することになります。

家族信託の契約書の中では、本人が亡くなった後、妻を次の受益者に定め、受託者(家族など)に財産管理なども指定することが可能ですので、残された家族が認知症になってしまっても対応できるということなのです。

このように、民事信託では財産の承継についても、柔軟に決めておくことができます。

遺言では誰に何を相続させるかを定めておくことはできますが、「遺産を毎月定額で渡したい」「特定の目的のために遺産を活用したい」「相続人や受遺者が一定の年齢になったら、遺産を渡したい」「相続人が遺産を残して死亡した場合、その財産の行き先、相続先を指定したい」といった要望をかなえることはできません。

しかし、家族信託なら、こうした要望にも応えることができます。

③ 財産承継の順位が決められる

遺産相続における相続順位を指定できるという点もメリットです。

例えば、第一順位の資産承継者が、認知症になってしまった場合でも、その人の代わりに第二順位の資産承継者を決めることが可能です。

その他に最初に指定した受益者が万が一亡くなってしまった場合、その次の受益者を誰にするか指定も可能です。

遺言では、1代先までしか財産を相続する人を決められません。しかし、家族信託なら1次受益者が亡くなった後に次に受けとる2次受益者、さらにその次の3次受益者と、3代先まで財産を取得する人を決めることもできます

これにより、代々の資産が直系卑属以外の他人に渡ることを防ぐことができるようになります。

これは事業承継の際にも活用でき、会社を経営していた場合なら、経営権をうまく譲渡したり、承継したりすることができます。

自分が引き継がせたい人の順番をあらかじめ決めておくことができるので、遺産分割協議でトラブルが起こることも予防できます

④ 倒産隔離機能がある

家族信託では、受託者に所有権が移転しますので、委託者の倒産や破産の影響を受けません。これらを「信託の倒産隔離機能」と言います。

委託者の債権者は信託財産から差し押さえや回収することもできませんので将来万が一何かがあった場合や、差し押さえられそうになった場合には備えることができます。

⑤ 不動産の共有問題・将来の共有相続への紛争予防に活用できる

共有不動産については、共同相続人全員が協力しないと処分できません。

したがって将来的に複数の相続人が不動産を共同相続してしまうと、管理処分権の問題が生じる可能性があります。

共有者としての権利や財産的価値は平等にしたまま、家族信託によって管理処分権限を共有者の一人に集約しておくことで、いわゆる「不動産の塩漬け」を防止することができます。

デメリットについて解説します。

① 成年後見制度でないとできないこともある

民事信託では対応できないことに、「身上監護」の問題があります。「身上監護」とは、身の周りの世話ではなく、判断能力のない本人に代わって住居の確保や契約、介護・福祉施設やリハビリ施設への入退所するための手続きや、医療や入院に関する契約や手続きを行うことです。

成年後見制度では民法にて身上配慮義務が規定されており、本人の財産管理のほか身上監護も念頭においているという点で大きく異なります。

ただし、家族という立場なら入退所や入院手続きはできますから、家族が受託者になっていれば実質的には身上監護面でも対応可能です。

② 受託者を誰にするかで揉めてしまう可能性がある

家族信託の受託者は、親族内の信頼できる人ということになります。

本人が指名することには全く問題はありませんが、実際には誰が受託者として選ばれるかという場面で親族の仲が悪くなってしまう可能性があります。

家族信託を活用する際には、受託者として選ばれない人にも十分な理解や、配慮を求める必要があります。

③ 節税効果は期待できない

家族信託では、受益者が第三者であれば贈与税、受益権が相続によって相続人に移転すれば相続税がかかります。

委託者には税金をかけられない一方で、委託者でない第三者の受益者には税金がかかりますので負担が大きいといってよいかもしれません。

また、家族信託では、所得税の計算上における「損益通算」ができません。

損益通算とは異なる所得間で利益と損失を相殺することができる制度のことです。

家族信託を利用して不動産投資を行っている場合、その不動産投資で損失が発生したとしても別の所得と損益通算を行うことはできません。

④ 遺留分侵害額請求の対象となる可能性がある

「遺留分」とは相続人側の利益を守るために一定の相続財産の取り分を保障する制度や権利を言います。

この遺留分を侵害するような不平等な分配がされた場合には遺留分侵害額請求という請求手続きができます。

詳しくは「遺留分侵害額請求が知りたい【制度内容や手続き方法を解説します】」をご覧ください。

家族信託の場合も、遺留分侵害額請求の対象となることがあります。

ただし信託の性質上、遺留分侵害額請求の対象とならないという見解もあり、意見が分かれています。

⑤ 税務申告をする可能性がある

信託財産から収益が発生した場合、その収益から生じる税金については別途税務申告を毎年行う必要があります。

具体的には資産の一部または全部を信託財産にした場合、そこから一定以上の収入がある場合は、「信託計算書」「信託計算書合計表」という2つの書類を税務署に提出し、そこから計算される利益に関しては課税されます。

また、毎年の確定申告の際、信託財産から不動産所得がある方は、不動産所得用の明細書のほかに、信託財産に関する明細書を別に作成して添付しなければなりません。

まとめ:家族信託は委託者の意思がしっかりと実現できる仕組みが必要です

ポイントをまとめます。

【メリット】

① 任意後見制度に代わる柔軟な財産管理が可能になる

② 遺言書の代用として活用できる

③ 財産承継の順位が決められる

④ 倒産隔離機能がある

⑤ 不動産の共有問題・将来の共有相続への紛争予防に活用できる

【デメリット】

① 成年後見制度でないとできないこともある

② 受託者を誰にするかで揉めてしまう可能性がある

③ 節税効果は期待できない

④ 遺留分侵害額請求の対象となる可能性がある

⑤ 税務申告をする可能性がある

家族信託のメリットやデメリットを解説してきました。

家族信託は使い勝手がよい制度であり、超高齢社会で認知症の患者も増加する一方である日本においては必要不可欠なものになるでしょう。

しかし、家族信託は委託者の意思を実現させるためにも、長期にわたり資産を管理・承継していく仕組み造りと後々の親族間の紛争や確執を起こさないような仕組み造りも必要です。

自分の思い描く理想の承継にするためには、専門家の手助けを借りるのがおすすめです。

ということで今回は以上です。

当事務所でもサポートできますのでお気軽にご相談くださいませ。

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