暦年贈与が知りたい【制度内容や効果的な利用方法を解説します】

暦年贈与が知りたい人
「暦年贈与があるとは知っていますが詳しい内容や使い方がわからないので知りたい。さらに効果的な利用方法があればついでに知りたい。あと注意することがあれば教えて下さい。」

こういった疑問にお答えします。

本記事の内容

  1. 暦年贈与の制度内容と活用方法【正しく運用しましょう】
  2. 暦年贈与を利用する上で注意すべき5つのこと

この記事を書いている私は、不動産歴18年ほど。その中で相続歴は10年ほどの行政書士です。

よくある質問で「暦年贈与は聞いたことがあるがいまいちわかりません」という疑問があります。その疑問を順番に解決していきましょう。

1.暦年贈与の制度内容と活用方法【正しく運用しましょう】

相続税対策の王道というべき基本の対策方法です

  • その①:暦年贈与について(制度内容を知りましょう)
  • その②:暦年贈与を活用した相続税対策(メリットがあります)
  • その③:暦年贈与の対象にならない贈与について(質問が多いところです)

上記のとおり

暦年贈与が分かるようにここから詳しく解説していきます。

その①:暦年贈与について(制度内容を知りましょう)

1人が1年間(1月1日~12月31日までの1年間)にもらう財産が110万円までであれば贈与税が非課税となります。

この贈与税が非課税という仕組みを利用した贈与の方法のことを「暦年贈与」と言います。

この方法により相続税のかかる財産を減らし、将来的に発生する相続税の負担を軽減させることが可能です。

そして「1年間に110万円までの贈与が非課税」であることから、この範囲内であれば毎年贈与をしても税金は一切かからず、この暦年贈与の範囲内であれば、贈与を受けても贈与税の申告も必要ありません。

ちなみに贈与税の申告をするのは「贈与を受ける側(もらう側)」です。

1年間に110万円を超えた場合(例えば父親から70万円と母親から41万円の計111万円もらった)には、ご自身が贈与税の対象となり贈与税の申告と納税が必要となりますのでご注意ください。

逆に、財産をあげる人は、何人にいくらあげても自分が税金を払うことはありません。

また、暦年贈与の制度は、贈与税に設けられている下記にあります他の非課税制度と併用して行うことができます。

【贈与税を非課税にする4つの制度】

  • 贈与税の配偶者控除
  • 住宅取得等資金の非課税制度
  • 教育資金の一括贈与
  • 結婚・子育て資金の一括贈与

その②:暦年贈与を活用した相続税対策(メリットがあります)

メリットを3つお伝えします

1.生前対策として活用させ相続税の節税をする

暦年贈与は年間110万円までの基礎控除がありますので、年間110万円までの贈与については税金がかかりません。

そこで生前対策として暦年贈与を活用させると、どれくらいの効果があるのかを見てみましょう。

【事例1】

「子ども2人に対して、20年間暦年贈与を行う場合」子ども2人に対して20年間暦年贈与を行うと、

(110万円×2人)×20年間=4,400万円

となり、4,400万円もの財産を無税で贈与することが可能となります。

これは「課税対象額=相続税がかかる金額が4,400万円以上」でしたら相続税の負担を軽減させておりますので節税対策に活用しております。

【事例2】

「遺産総額として預金が8,000万円あり、配偶者と子ども2人、孫1人がいて、2人の子どもと孫1人に対して10年間暦年贈与を行った場合」年間110万円の贈与無税枠は、子どもだけでなく、孫に対しても認められています。

そこで、2人の子どもと孫1人に毎年110万円ずつ暦年贈与を繰り返し、10年間継続すると、毎年330万円、合計3,300万円の遺産を無税で子どもや孫に受け継がせることができるので、10年後には遺産総額は4,700万円まで減らすことができて、その分税負担を軽くすることができます。

法定相続人は、配偶者と子供2人の合計3人いるので、相続税の基礎控除は3,000万+600万×3人で4,800万円となり、遺産総額は4,700万円まで減っているので相続税はかからず、相続税は0円になります。

よって相続税の負担を0円にさせておりますので節税対策に活用しております。

2.世代を飛ばして孫や第三者にも財産分与ができる

暦年贈与を使って贈与できる相手は、子どもに限定されるのではなく、孫でも第三者でも受けとることが可能です。

相続と違い、贈与は受け取る順番が決まっているわけではないので、財産分与を自由に、世代を飛ばして行うことができるのです。

暦年贈与をする相手が増えれば、その分、1年間で減少させることができる財産額が多くなりますので、短い期間で対策ができます。

3.生前に財産分割をすることで相続争いを未然に防ぐことができる

暦年贈与は生前の元気なうちに相手を決めて贈与をするものになります。

つまり、被相続人の意思で、あげたい人にあげたい金額を自由に渡すことができる点が大きいです。

相続後に家族が揉めたとしても、被相続人はどうすることもできません。

だからこそ、生前に被相続人の意思で財産の分割をしておく、または遺言に残しておくことなどが必要となります。

その③:暦年贈与の対象にならない贈与について(質問が多いところです)

基本的に生活費や教育費なら贈与税がかかりません。

例えば、

  • 扶養義務者が被扶養者(子供や孫など)に通常必要と認められる教育費や生活費をわたした場合
  • 子供や孫に入学祝いをわたした場合
  • 子供や孫が結婚するときや出産したときのお祝いをわたした場合

ただし、社会通念上一般的な範囲という制限が設けられていますのでいくらでもOKというわけではありませんのでご注意ください。

2.暦年贈与を利用する上で注意すべき3つのこと


ここで注意すべき5つのことをお伝えします。

  • その①:名義預金と判断されると贈与とは認められなくなります
  • その②:計画的な贈与を繰り返さないようにしましょう
  • その③:相続発生3年以内の贈与には相続税がかかる
  • その④:暦年贈与と相続時精算課税制度の併用はできません
  • その⑤:今後、暦年贈与が使えなくなるかもしれません

その①:名義預金と判断されると贈与とは認められなくなります

非課税枠の範囲内で暦年贈与を行っていたとしても、税務署が贈与だと認めてくれなければ将来的に相続が発生した際に相続税が課されることになります。

贈与だと認められない可能性が高いものとして挙げられるのが、実際の預金者と口座の名義人が異なる「名義預金」です。

贈与を成立させるには原則として財産を渡す方と受け取る方、両者の同意が必要です。

それゆえ、親が子の知らないところで子名義の口座に毎年100万円の預金を振り込んでいた場合には贈与とは認められません。

贈与のつもりで110万円以下を預金していても名義預金だと判断されると相続財産に含まれ、相続税の課税対象となってしまうためご注意ください。

名義預金と判断されないための対策方法

  • 贈与契約書を作成する
  • 金融機関への届出印は贈与者と受贈者で別のものを使用する
  • 受贈者の責任において届出印、通帳、キャッシュカードを管理する
  • 預金を受贈者が自由に使用できるようにしておく
  • 贈与された預金をいくらか使用しておく

名義預金についても財産を渡す方と受け取る方との間で贈与が成立していることを証明する必要があります。

贈与契約書を作成しておけば両者に贈与の意思があったという証拠になりますし、名義人が自由に使用できる、使用したとなれば、贈与によって預金が受贈者のものになったことは明らかとなります。

その②:計画的な贈与を繰り返さないようにしましょう

毎年、同じ時期(例えば誕生日)に同じ金額を贈与していると、あらかじめ贈与する金額が決まっていて、まとまったお金を贈与する予定(定期贈与)だったとみなされます。

このように毎年同じ金額の贈与を行っていると税務署に疑われてしまう可能性があるため、暦年贈与を行う際は贈与の金額を一定にしないことが重要だといえるでしょう。

定期贈与と判断されないための対策方法

  • 贈与する度に契約書を作成する
  • 贈与するタイミングを都度変更する
  • 贈与する金額を一定にしない

贈与するタイミングや金額を毎年変更し、贈与を行う度に契約書を作成すれば、1年毎の贈与であるとみなされます

その③:相続発生3年以内の贈与には相続税がかかる

毎年110万円以内でコツコツと贈与をおこなう中で、贈与する方が亡くなると相続開始前3年以内におこなった分の贈与は相続税の課税対象として持ち戻されてしまいます。

暦年贈与は1日でも早く贈与をしておくことが重要です。

その④:暦年贈与と相続時精算課税制度の併用はできません

「相続時精算課税制度」とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、子・孫(受贈者)の選択により利用できる制度です。

2,500万円の特別控除があり、同一の父母または祖父母からの贈与において限度額に達するまで何回でも控除することができ、2,500万円までの贈与には贈与税がかかりません。

詳しくは「相続時精算課税制度について【制度内容や活用方法を解説します】」をご覧ください。

しかし、贈与を受けた際に相続時精算課税制度を利用した場合、同じ方から翌年以降に受ける贈与では基礎控除額110万円の非課税枠を利用した暦年贈与を行うことはできません。

贈与の際に暦年贈与と相続時精算課税制度、どちらを利用したほうがより節税効果が高いのかについては、相続に詳しい専門家に相談することをおすすめします。

その⑤:今後、暦年贈与が使えなくなるかもしれません

メリットの多い暦年贈与ですが、令和3年度の税制改正大網によれば、相続税と贈与税について「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す」とされ、「資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。」と記載されています。

要は、相続税と贈与税を一体化し、暦年贈与をしても今後は相続財産に含めて課税する方向で進めるというわけです。

以上から、令和4年の税制改正大網では具体的な内容や施行時期が注目されていましたが、結局令和4年の税制改正大網では暦年贈与に関する改正はなく、継続的に審議されることとされました。

しかし、今後暦年贈与について見直しがされる可能性は高く、暦年贈与の廃止または縮小への流れは変わらないと見られています。

まとめ:暦年贈与は相続税対策に効果があります


ポイントをまとめます。

  • 暦年贈与について(制度内容を知りましょう)
  • 暦年贈与を活用した相続税対策(メリットがあります)
  • 暦年贈与の対象にならない贈与について(質問が多いところです)
  • 暦年贈与の注意点を把握しましょう
  • 今後、暦年贈与が使えなくなるかもしれません

暦年贈与は制度の範囲内であれば特に申告の必要もなく地道に贈与をして効果を得られるものです。

効果的に相続税を節税できますが、今後の税制改正でそのメリットがなくなる可能性やいくつか注意点があったことも思いだしてください。

しかし、暦年贈与以外の非課税措置を利用したり、子と養子縁組したりするなど、他にも相続税対策として有効な方法は多々あります。

いずれの方法も早めにスタートした方が効果は高いものばかりですから、相続税対策について検討したい方は当事務所にご相談くださいませ。

行政書士おおこし法務事務所

ということで今回は以上です。

これを参考に相続税の基礎控除の計算や相続財産を洗い出して相続税がかかるのかどうか確認してみましょう。

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